36協定は届出ていますか?

最近、就業規則の作成や労務相談をお受けするとき、36協定について説明を求められます。

「36協定って、聞いたことはありますが、何のことですか?」

ご相談を受けた会社(複数)は共通して、『これまで残業をしたときは労働基準法に基づいて残業代を支払っており、従業員からも改善を求められたことはなく、問題はない。』と考えていました。

まず、36協定とは何か?

”36協定”とは、労働基準法36条に定められている協定で、通称”36協定”と呼んでいます。

その条文には、『使用者は、会社で労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と書面で労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届出た場合は、時間外労働、休日労働させることができる』旨書かれています。

言い方を変えると、「36協定を届出ていない場合は、時間外労働、休日労働させてはいけない。また、36協定を届出た場合は、届出た時間の範囲で残業や休日労働させることが出来る。」ということです。

皆さんがよく勘違いされるのは、「残業代を支払っていれば36協定がなくても問題はないだろう」と思われていることです。

36協定は、労使間で締結しただけでは効力はなく、必ず1年に1回更新して届出なければなりません。自動更新もありません。

労働基準法36条では残業時間も定められており、原則として1ヵ月45時間、1年間360時間の範囲です。(特別条項付というものもありますが今回は省略します。)

36協定に違反して労働させると、労働基準法32条(労働時間)、35条(休日)の違反となり罰則(6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)があります。

これまで届出をしていない事業者様は、いきなり罰せられることはありませんので、この機会に労働基準監督署あるいは身近な社会保険労務士にお尋ねください。

東芝うつ病事件判決

平成26年3月24日、メンタルヘルスに関する最高裁の判決がありました。

経緯を簡単に説明しますと、平成2年4月に入社した技術系の女性社員が、長時間の重労働が主な原因で体調をくずし、約10年後うつ病を発症してその後休職期間満了により、平成16年9月解雇になりました。

一審、二審とも、業務とうつ病の因果関係を認め、解雇無効が確定しました。

今回の最高裁の争点は、過重労働によってうつ病を発症し増悪した場合の損害賠償額を決定するにあたり、この元社員が自らの過去の精神科通院等メンタルヘルスに関する情報を会社側に申告していなかったことが本人の過失に当たり、賠償額を減額できるかという点でした。

最高裁は、メンタルヘルス等に関する情報を元社員が会社に申告しなかったとしても、自分のプライバシーに関する情報は、人事考課等に影響することであり、通常は知られることなく働き続けようと考える性質の情報と言えると理解を示しました。そして、

会社は、元社員から申告がなくても、労働環境を含め健康に関して十分配慮する必要があり、今回のように労働者にとって過重な業務が続くなかでその体調の悪化が看て取れる場合には、本人からの積極的な申告は期待できないことを前提として、業務の軽減等労働者の心身の健康に配慮する義務があったと判断しました。

この判決は、会社側にとっては大変厳しい判決と思いますが、日本を代表する会社であれば、発症の経緯や社員への休職期間の対応、休職から退職(解雇)までの手続の進め方に強引なところがあったのかなあと想像しています。

さらに当時はまだ、”メンタルヘルス”という概念が一般的ではなく、会社としての対応が後手に回ったのかなあと、また勝手に想像しています。

近年、メンタルヘルスは社会問題となっており、今通常国会において従業員50人以上の会社は、ストレスチェックの義務化等安全衛生法の改正案が審議されています。

まず会社としては、従業員に対する安全配慮義務(労働安全衛生法、労働契約法)があること、たとえこれらの法律を遵守していたとしても、民事上の損害賠償責任を問われる可能性は十分あることを認識する必要があります。

会社(直属の上司や同僚)は、従業員が①長時間労働がずっと続いていないか(労基法の基準は、1週間15時間、1ヵ月45時間、3ヵ月120時間、1年間360時間)、②長時間労働以外のストレス要因を抱えていないか(人事異動、昇進・昇格による重責、仕事のミス、単身赴任、結婚、出産、離婚等環境の変化)等に気を配り、場合によっては声掛けをする等のコミュニケーションを図り、日頃から心身の健康状態をチェックする必要があります。

 

 

勤務成績の悪い社員を解雇したい!

最近、「勤務成績の悪い社員を解雇したい」というご相談を複数からいただきました。

【一般社員の場合】

”解雇”の規定といえば、労働契約法第16条です。そこには、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』とあります。

逆説的には、「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当性があれば、解雇は認められる。」ということです。

では、『客観的に合理的理由』、『社会通念上相当』とは、どういうことでしょう。

過去の判例から、以下にまとめてみました。

① 就業規則に該当する解雇事由が記載されているか

② 勤務成績不良の程度

③ 勤務成績の判断基準の妥当性(相対評価 下位5%)

④ 同一事由による解雇者の有無

⑤ 会社の指導の有無と程度

⑥ 反省の機会の有無

⑦ 配置転換の余地の有無

会社は、該当する社員に対して、きちんと指導・教育を繰り返し、それでも「やる気を見せない」、「成績が上がらない」などという場合は、退職勧奨して、応じない場合は解雇も止む無しの手順ではないでしょうか。

【パートタイマーの場合】

パートタイマーの期間途中での解雇は、一般社員より制限されています。(労働契約法第17条)

そこには、『やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間は解雇することが出来ない』と書かれています。つまり、「よほどのことでなければ契約期間満了まで働かせなさい」ということです。

【特定地位の社員の場合】

営業部長あるいは経理部長のように、それなりの実績をもとに一定の地位と処遇を与えて採用した社員が、当初の期待した成果を出すことが出来ず期待外れだったという場合です。

この場合は、一般社員の解雇よりも多少解雇要件が広く認められる場合があります。ただし、即解雇というより、一般社員として再契約の検討も必要でしょう。

産前産後休業期間 社会保険料免除!

次世代育成支援のため、平成26年4月より産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、休業した期間の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が免除になります。

産前産後休業終了後、賃金が下がった場合は、産前産後休業終了後3ヵ月間の賃金をもとに、新しい標準報酬月額を決定し、その翌日から改定します。

http://www.nenkin.go.jp/n/data/service/000001674194EWe5gfHi.pdf

 

我社の経営理念

私は、2009年9月の開業以来、経営理念の必要性をずっと考え続けてきました。

「自分はなぜこの仕事を始めたのか?」「何をしたいと思っているのか?」

理念としてまとまらないまま、4年が経過してしました。

しかし、この仕事をはじめてから5年目に入ったこともあり、もう一度原点に立ち戻って考えてみました。

そして、漠然とイメージしていたものを”形”としてまとめることができましたので公開することにしました。

 

◇ 経営理念 ◇

 

【自社の三つの喜び】

  • 一の喜  お客様に感動してもらえる
  • 二の喜  職員が日々充実している
  • 三の喜  地域に貢献している

一の喜は、単に依頼された仕事を行ない報告するということではなく、報酬をいただく以上感動されるレベルの仕事をしなければならないということです。

どういう仕事が感動される仕事かといえば、具体的なものはありません。ただ、なにか特別なことをすることではなく、お客様の期待以上のもの、また期待していなかった何かができたときではないかと思っています。

「満足してもらおう」と意識してできることではないと考えています。自分にとって”こんなことが?”と思うこともお客様にとっては”うれしい”ことかもしれません。いずれにしても永遠の課題です。

二の喜は、「働く職員には、仕事も私生活も充実した日々を過ごしてもらいたい。」と考えています。 職員が不安定な精神状態で、お客様に満足し、感動を得ていただくことなどできるはずがないと考えるからです。

職員の充実感はそれぞれ異なるものでしょうが、究極は「幸福感」ではないかと考えます。

三の喜は、当然のことながら「納税という形で地域社会に貢献できる。」ことと考えます。

 

◇ 行動三原則 ◇

 

  • 誠心誠意尽くす
  • 約束は守る
  • 知ったかぶりをしない

経営理念を実現するための行動原則で、仕事をする上での”基本的な心構え”です。

これから仕事をしていくうえで、「自己満足」に陥らないよう注意し、「反省」と「感謝」の”こころ”を忘れず、毎日業務に努めなければならないと考えています。

以上が年頭にあたり、心新たに誓った思いです。

 

何がパワハラ?

先日、経営者、経営幹部向けパワハラの研修会に参加してきました。

平成24年度、厚生労働省の個別労働紛争解決制度における相談件数では、前年度までトップだった「解雇」を抜き、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談がトップになりました。

「解雇」5万1515件(対前年度比▲10.9%)

「いじめ・嫌がらせ」5万1760件(対前年度比12.5%)

パワハラを類型別にみると(厚生労働省発表)

    1. 身体的攻撃(暴行、傷害等)
    2. 精神的攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)
    3. 人間関係からの引き離し(隔離、仲間外し、無視)
    4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    5. 過小な要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

研修会では、弁護士から「パワハラ=労災認定」された具体的判決の事例もいくつか紹介されました。

    • 日研化学事件(東京地裁平成19年10月15日判決)
    • 中部電力事件(名古屋高裁平成19年10月31日判決)
    • 川崎市水道局事件(東京高裁平成15年3月25日判決)

研修会の後半は、参加者でグループ討議しました。

参加者の皆さんは、パワハラに対する意識が高く、会社のリスクとしてどう予防すればいいか悩まれていました。

意見を交換している中で、パワハラの多い会社と少ない会社があることが分かりました。

一例ですが、多い会社は、技術系、又は職人を雇用している会社です。安全上、技術の伝承等つい声が荒くなってしまうようです。

一方、社長や経営幹部自らがパワハラを発生させないという意識の高い会社や、職場内でコミュニケーションをとるように努めている会社(飲み会も含めて)は少ないようです。

対策としては、経営トップが「パワハラを発生させない。」という強い意識と社内へのメッセージが必要です。

パワハラ予防やパワハラと感じた時の社内相談先(直接社長まで)を書いた紙片を定期的に給与明細に同封して渡す会社がありました。

注意する場合はトラブル予防のために録音して注意する、あるいは従業員に録音されていても大丈夫という言葉使い(意識)で注意することが大切です。

最近は、従業員本人よりその両親から「パワハラではないか。」と電話がくることもあるそうです。

一度問題が発生し、相手の主張が認められると多額の損害賠償額が請求されます。

会社は、これらのリスクを低減するために日頃から社内研修・教育や社内規程づくりが重要です。

ご質問、ご相談等ありましたらお問い合わせください。

 

個別労働紛争解決研修に参加して

11月1~2日の2日間、日本労使関係研究協会が主催する”個別労働紛争解決研修”に参加しました。

この研修は、会社関係者、労働組合関係者、社会保険労務士等17名が参加し、それぞれの立場で、個別労働紛争解決能力のスキルアップを目的に、グループ討議、事例研究、模擬労働審判形式のトレーニングが行なわれました。

今回は特に2つの点が印象に残りました。

1つ目は、今後の労務管理上注意すべきポイントです。

複数の事業所がある会社で就業規則に「業務の都合により、出張、配置転換、転勤を命じることがある。」という規定に基づいて転勤を命令しても、子育てあるいは介護が必要として、本人が転勤拒否を申し出た場合、状況によっては”育児・介護休業法”第26条(労働者の配置に関する配慮)の配慮義務を根拠として転勤を無効と判断される可能性がある、しかもこの傾向が強くなっているということです。

今後、会社はこの点を考慮した人材配置、労務管理が必要になる考えます。

もう1点は、模擬労働審判の尋問です。

労働審判は社会保険労務士として当面直接かかわることはできませんが、あっせん代理人の立場として大変勉強になりました。

申立人(労働者)の代理の立場から①申立人の主張が証明されるような尋問を申立人にする。②申立人の主張に正当性があることを証明させるための尋問を相手方(会社側)にする、あるいは逆に、相手方の代理の立場から相手方、申立人それぞれに尋問するという体験です。

これは初めての体験で、それぞれの立場からどのような尋問をすれば労働審判員に、より有利に受け止めて貰えるかを考えなければならず、大変難しく事前の準備がとても重要であると感じました。

今回は3回目の参加ですが、毎回いろいろな方々と交流ができ、また具体的事例や模擬体験等改めて勉強になりました。今後の労務相談、あるいは労務トラブルの相談を受けた時のための貴重な時間となりました。また機会があれば参加して実務に繋げたいと考えます。

固定時間外手当の導入と問題点

労働基準法37条では労働者の時間外労働、休日労働、深夜労働(以下「時間外労働」)に対して、会社に割増賃金の支払義務を規定しています。

賃金計算を簡略化するため、時間外労働が一定の時間に満たない場合でも、基本給に時間外労働分を含める、あるいは定額の時間外労働賃金を支払う固定時間外手当制度を導入している会社が多くあります。

この導入自体は、労務管理上の便宜を図るうえで問題はありませんが、労働時間の把握と管理をきちんとしていることが重要です。

会社として固定時間外手当制度を導入するに当たっては、① 就業規則・賃金規程等に導入する旨規定すること、② 労働時間の把握・管理を徹底することです。

基本給を多額に見せて、実際にはその半額が時間外労働の固定部分にしていくら時間外労働をしても割増賃金を支払って貰えないとか、労働時間の管理がされておらず、定額の時間外手当以上に時間外労働したにも関わらず、定額の手当しか支払って貰えないといったトラブルが多数発生しています。

このようなトラブルを避けるためには、基本給に時間外労働賃金を含める場合は、通常の労働時間部分はいくらで、時間外労働時間部分の割増賃金部分がいくらかを明確にすることです。

また定額の時間外手当を支払う場合は、① 実質的にその手当が時間外労働の手当としての性格を持っている ② 給与明細に、支給対象の時間外労働時間数と手当額が明示され、時間外労働時間数が手当額を超えた場合は、別途清算を行なう必要があります。

1ヵ月の時間外労働時間を80~100時間と見越して定額手当を設定した場合、「長時間労働を前提とした定額手当制度は、労働者に過重労働を課す危険性があり公序良俗に反する。」という意見があり、裁判では、会社が”95時間分の時間外労働としての手当”と主張したのに対して、労働基準法36条及び「時間外労働の限度基準」から月45時間分の手当に相当とするとした例もあります。(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件札幌高裁H24.10.19)

昨今のブラック企業と称される企業の実態は不明ですが、いぜれにしても労使間のトラブルは双方に多大な不利益をもたらします。

営業成績不良を理由に解雇できるか?

先日、解雇についてご相談がありました。

その方は、「数か月前、営業職として採用した従業員だが、成績が上がらない。就業規則にも成績の悪い者は解雇できる旨規定があるので解雇したいが注意すべきことがあれば教えてほしい。」とのことでした。

解雇の有効性を判断する場合、過去の裁判例では

  • 就業規則に該当する解雇事由が記載されているか
  • 勤務成績不良とはどの程度か
  • 勤務成績不良の判断の妥当性(下位5%)
  • 会社は教育・指導をしたか、またどの程度したか
  • 反省の機会を与えたか
  • 配置転換の余地はないか
  • 同一事由での解雇者はいるか

等が検討されます。

今回のように、就業規則に書かれているから解雇できるということではありません。

解雇が認められるためには、「客観的に合理的事由があり、社会通念上相当」と認められなければなりません。(労働契約法第16条)

また、パートタイマー等有期労働契約の場合は、「やむを得ない事由がある場合出なければ、労働契約満了まで解雇できない。」となっています。(労働契約法第17条)

つまり、有期労働契約の場合は、無期労働契約より期間途中での解雇は難しいということです。