東芝うつ病事件判決

平成26年3月24日、メンタルヘルスに関する最高裁の判決がありました。

経緯を簡単に説明しますと、平成2年4月に入社した技術系の女性社員が、長時間の重労働が主な原因で体調をくずし、約10年後うつ病を発症してその後休職期間満了により、平成16年9月解雇になりました。

一審、二審とも、業務とうつ病の因果関係を認め、解雇無効が確定しました。

今回の最高裁の争点は、過重労働によってうつ病を発症し増悪した場合の損害賠償額を決定するにあたり、この元社員が自らの過去の精神科通院等メンタルヘルスに関する情報を会社側に申告していなかったことが本人の過失に当たり、賠償額を減額できるかという点でした。

最高裁は、メンタルヘルス等に関する情報を元社員が会社に申告しなかったとしても、自分のプライバシーに関する情報は、人事考課等に影響することであり、通常は知られることなく働き続けようと考える性質の情報と言えると理解を示しました。そして、

会社は、元社員から申告がなくても、労働環境を含め健康に関して十分配慮する必要があり、今回のように労働者にとって過重な業務が続くなかでその体調の悪化が看て取れる場合には、本人からの積極的な申告は期待できないことを前提として、業務の軽減等労働者の心身の健康に配慮する義務があったと判断しました。

この判決は、会社側にとっては大変厳しい判決と思いますが、日本を代表する会社であれば、発症の経緯や社員への休職期間の対応、休職から退職(解雇)までの手続の進め方に強引なところがあったのかなあと想像しています。

さらに当時はまだ、”メンタルヘルス”という概念が一般的ではなく、会社としての対応が後手に回ったのかなあと、また勝手に想像しています。

近年、メンタルヘルスは社会問題となっており、今通常国会において従業員50人以上の会社は、ストレスチェックの義務化等安全衛生法の改正案が審議されています。

まず会社としては、従業員に対する安全配慮義務(労働安全衛生法、労働契約法)があること、たとえこれらの法律を遵守していたとしても、民事上の損害賠償責任を問われる可能性は十分あることを認識する必要があります。

会社(直属の上司や同僚)は、従業員が①長時間労働がずっと続いていないか(労基法の基準は、1週間15時間、1ヵ月45時間、3ヵ月120時間、1年間360時間)、②長時間労働以外のストレス要因を抱えていないか(人事異動、昇進・昇格による重責、仕事のミス、単身赴任、結婚、出産、離婚等環境の変化)等に気を配り、場合によっては声掛けをする等のコミュニケーションを図り、日頃から心身の健康状態をチェックする必要があります。

 

 

勤務成績の悪い社員を解雇したい!

最近、「勤務成績の悪い社員を解雇したい」というご相談を複数からいただきました。

【一般社員の場合】

”解雇”の規定といえば、労働契約法第16条です。そこには、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。』とあります。

逆説的には、「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当性があれば、解雇は認められる。」ということです。

では、『客観的に合理的理由』、『社会通念上相当』とは、どういうことでしょう。

過去の判例から、以下にまとめてみました。

① 就業規則に該当する解雇事由が記載されているか

② 勤務成績不良の程度

③ 勤務成績の判断基準の妥当性(相対評価 下位5%)

④ 同一事由による解雇者の有無

⑤ 会社の指導の有無と程度

⑥ 反省の機会の有無

⑦ 配置転換の余地の有無

会社は、該当する社員に対して、きちんと指導・教育を繰り返し、それでも「やる気を見せない」、「成績が上がらない」などという場合は、退職勧奨して、応じない場合は解雇も止む無しの手順ではないでしょうか。

【パートタイマーの場合】

パートタイマーの期間途中での解雇は、一般社員より制限されています。(労働契約法第17条)

そこには、『やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間は解雇することが出来ない』と書かれています。つまり、「よほどのことでなければ契約期間満了まで働かせなさい」ということです。

【特定地位の社員の場合】

営業部長あるいは経理部長のように、それなりの実績をもとに一定の地位と処遇を与えて採用した社員が、当初の期待した成果を出すことが出来ず期待外れだったという場合です。

この場合は、一般社員の解雇よりも多少解雇要件が広く認められる場合があります。ただし、即解雇というより、一般社員として再契約の検討も必要でしょう。