ストレスチェックと安全配慮義務

みなさんすでにご存知とは思いますが、ストレスチェック制度が2015年12月1日から施行され、従業員50人以上の事業所では2016年11月30日までに実施する必要があり、その後1年に1回定期的に実施することが義務になっています。

この制度のポイントは、

1.常時使用する労働者に対して、医師・保健師等によるストレスチェックの実施が会社の義務になること

2.検査結果は、医師・保健師等から直接本人に通知されるため、本人の同意がなければ会社へは提供されないこと

3.検査の結果、一定の要件(高ストレス者であって面接指導が必要と医師・保健師等が認めた者)に該当する労働者から申し出があった場合、医師による面接指導を実施することが会社の義務となること

4.申出をしたことを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されていること

5.会社は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を講じなければならないこと

このストレスチェックは、定期健康診断と違い、労働者本人が受検するかしないかを決めることができ、ストレスチェックの検査結果は本人に通知され、本人の同意なく会社には通知されません。

ですから会社は法令に基づき、適切に勧奨を行っていたにも関わらず、労働者がストレスチェックを受検しなかったり面接指導を受けなかったことについては。会社が責任を負うことはありません。

しかし、東芝(うつ病)事件(平成26年3月24日最高裁第二小法廷)の判例に示されましたが、労働者本人から自分の健康状態に関する情報の申告がなくても、会社はその健康にかかわる労働環境等に十分な注意を払う義務(安全配慮義務)を負っています。

たとえ労働者がストレスチェックや医師の面接指導を受けておらず、会社もその結果を把握していなかったとしても、実際に相当程度の欠勤が続いたり、業務軽減の申し出があったりした場合は、会社はそれなりの適切な措置の実施が求められ、それを怠った場合は一定の責任を負うことになると考えます。

現在50人未満の事業所もメンタルヘルス対策は必須です。ストレスチェック制度もいずれは対象となるはずです。

この機会にできることをひとつでも実施して体制を整備することをおすすめします。

医療労務コンサルタント研修を終えて

4月26日、27日の2日間、北海道社会保険労務士会が主催する「医療労務コンサルタント研修」を受講してきました。

たった2日間でしたが、病院規模の大小を問わず、医療現場の医師、看護師等の厳しい労働環境の実態、抱えている課題を認識することができました。

医療スタッフは、高度な使命感と倫理感を持った専門職です。

”人の命”に携わるため緊急の場合などは、勤務時間終了後でも、休憩時間であっても、休日であっても治療しなければならない状況が多々あります。

しかしながら、労働時間の管理が不十分な病院の場合、過重労働・睡眠不足によってストレスが蓄積され、やがてうつ病(うつ状態)となり、ついに休職あるいは退職しなければならず、結果として医療現場は慢性的に人手不足で、ますます多忙という悪循環に陥っています。

病院はそれぞれ事情は異なると思いますが、まず改善できるところから取り組み、スタッフの休憩時間・休日を確保する体制づくりが急務と考えます。

次に医療現場を一時的に離れている医師、看護師等の確保のために、復帰しやすい労働環境づくりが重要と考えます。

厚生労働省は、平成25年に「医師や看護職員等の幅広い医療スタッフを含めた医療機関全体で『雇用の質』の向上に取り組むことが重要である」と認識し、「医療分野の『雇用の質』の向上プロジェクト報告」をまとめました。

今後、厚生労働省は新たな対策・方針を発表するようです。

私も、さらに勉強と経験を積み重ね、医療現場の改善に貢献していきたいと思った研修でした。

東芝うつ病事件判決

平成26年3月24日、メンタルヘルスに関する最高裁の判決がありました。

経緯を簡単に説明しますと、平成2年4月に入社した技術系の女性社員が、長時間の重労働が主な原因で体調をくずし、約10年後うつ病を発症してその後休職期間満了により、平成16年9月解雇になりました。

一審、二審とも、業務とうつ病の因果関係を認め、解雇無効が確定しました。

今回の最高裁の争点は、過重労働によってうつ病を発症し増悪した場合の損害賠償額を決定するにあたり、この元社員が自らの過去の精神科通院等メンタルヘルスに関する情報を会社側に申告していなかったことが本人の過失に当たり、賠償額を減額できるかという点でした。

最高裁は、メンタルヘルス等に関する情報を元社員が会社に申告しなかったとしても、自分のプライバシーに関する情報は、人事考課等に影響することであり、通常は知られることなく働き続けようと考える性質の情報と言えると理解を示しました。そして、

会社は、元社員から申告がなくても、労働環境を含め健康に関して十分配慮する必要があり、今回のように労働者にとって過重な業務が続くなかでその体調の悪化が看て取れる場合には、本人からの積極的な申告は期待できないことを前提として、業務の軽減等労働者の心身の健康に配慮する義務があったと判断しました。

この判決は、会社側にとっては大変厳しい判決と思いますが、日本を代表する会社であれば、発症の経緯や社員への休職期間の対応、休職から退職(解雇)までの手続の進め方に強引なところがあったのかなあと想像しています。

さらに当時はまだ、”メンタルヘルス”という概念が一般的ではなく、会社としての対応が後手に回ったのかなあと、また勝手に想像しています。

近年、メンタルヘルスは社会問題となっており、今通常国会において従業員50人以上の会社は、ストレスチェックの義務化等安全衛生法の改正案が審議されています。

まず会社としては、従業員に対する安全配慮義務(労働安全衛生法、労働契約法)があること、たとえこれらの法律を遵守していたとしても、民事上の損害賠償責任を問われる可能性は十分あることを認識する必要があります。

会社(直属の上司や同僚)は、従業員が①長時間労働がずっと続いていないか(労基法の基準は、1週間15時間、1ヵ月45時間、3ヵ月120時間、1年間360時間)、②長時間労働以外のストレス要因を抱えていないか(人事異動、昇進・昇格による重責、仕事のミス、単身赴任、結婚、出産、離婚等環境の変化)等に気を配り、場合によっては声掛けをする等のコミュニケーションを図り、日頃から心身の健康状態をチェックする必要があります。

 

 

メンタルヘルス・マネジメント試験

これからの労務管理には、メンタルヘルス対策も重要と考え、3月に大阪商工会議所が主催する「メンタルヘルス・マネジメントⅡ種ラインケアコース(管理監督者)」を受験しました。

先日、合格通知が届いたのでこのブログに書き込むことにしました。

今回の試験は、Ⅱ種(会社の管理監督者向けの内容)で、部下が不調に陥らないように普段から配慮し、不調が見受けられた場合は、安全配慮義務に沿った対応を行なうことを目標にしています。

心の健康を損なってからの事後対策から心の健康問題の未然防止、さらに会社の組織的なケアの推進が主な内容です。

管理監督者が、部下のストレスに気付くポイントは、「いつもと違う様子に気付く」ことです。

たとえば、

  • 遅刻、早退、欠勤が増える
  • 休みの連絡がない
  • 残業、休日出勤が不釣り合いに増える
  • 仕事の能率が悪くなる
  • 思考力、判断力が低下する
  • 業務の結果がなかなか出てこない
  • 報告や相談、職場での会話が減ってくる
  • 表情に活気がなく、動作にも元気がない
  • 不自然な言動が目立つ
  • ミスや事故が目立つ
  • 衣服が乱れたり、不潔であったりする

これらのいつもと違う点は、他者との比較ではなく、本人の普段との変化を捉えることがポイントです。

Ⅰ種の試験は、経営者向けの内容になり、メンタルヘルスケア計画、社員への教育・研修等に関する企画・立案・実施が目標となります。

勉強し、受験するかはこれから考えます。

メンタルヘルス対策

「メンタルヘルス」というキーワードはよく目にするようになりましたが、皆さんの職場で対策はお済みでしょうか。

メンタルヘルス疾患の原因は、過重労働やノルマ・締切のプレッシャー、あるいは人間関係の軋轢等職場環境によるものと、本人の性格やストレス耐性等個人の問題と考えられるものがあります。

メンタルヘルス疾患は、本人が気づく場合と、周囲の人が「あの人の様子が最近おかしい。」と気づく場合があります。

具体的に診断されると、本人の性格によって「会社に迷惑をかけるので早く職場に復帰したい。」と考える人と、「自分がこうなったのは会社のせいだ。あるいは上司のせいだ。」と主張し、場合によってはわがままと思われるような要求をしてくる人もいます。

これらの問題を未然に防止する解決策はありませんが、問題が発生したときの対策を就業規則等で決めておく必要があります。

問題が発生したときは、会社は個別にその時点で最善と思われる方法を適切に対応していくしかありません。まず、主治医に受診させます。よく聞く話は、まじめな従業員ほど早い職場復帰を望み、主治医に「職場復帰可能」と診断書に書くよう依頼するそうです。

主治医は会社の状況・職場環境・業務内容等を把握しないまま、本人の主張に沿った内容の診断書を書いてしまうことも多いようです。逆に会社側が心配になり、本人了解のうえで主治医と面接したり、主治医と会社の担当医(産業医)と連携して対応していくこともあります。

また、復職と休職を繰り返すことも考えられます。主治医が復帰を認めた場合でも、会社は完全復帰とはせず、様子を見るためリハビリ期間を設けるのも一つの方法です。その期間中に再発した場合の対処も決めておく必要があります。

これらの内容を具体的にどこまで就業規則等に規定するかはそれぞれ会社の考え方によって当然違ってきますが、「会社として対応を考えている」という意思を表すことで、従業員から安心感や信頼感を得ることができるはずです。

最後に専門機関・対策機関を一部掲載します。

・北海道安全衛生サービスセンター

・メンタルヘルス対策支援センター

・北海道立精神保健福祉センター

・札幌地域産業保健センター

・日本産業カウンセラー協会