高年齢者雇用安定法改正と同一労働同一賃金

みなさん、こんにちは。

2021年4月から高年齢者雇用安定法改正が施行され、会社は従業員が希望した場合

には、70歳まで就労させるべく努力義務が課せられます。

今回の措置は、就労人口減少対策であり、社会保障制度の支え手(年金保険料)

の確保、元気な高齢就労者の働く動機付けなどが考えられます。

会社として取るべき対策は、①定年制の廃止、②定年年齢の引き上げ、③定年後の

再雇用などから選択することになります。

 

その場合考えなければならばいのが、同じ4月から中小企業にも適用される同一労働

同一賃金で、定年後の賃金をどのように見直すかが大きな課題です。

 

数年前の「長澤運輸事件」では、定年後の嘱託社員が、「仕事の内容が定年前の

仕事と全く同じにもかかわらず、賃金が下がったことは労働契約法第20条に違反して

いる」と訴えた裁判で、2018年最高裁は、

「基本給、各種手当を個々に検討し判断する必要がある」としました。

具体的に基本給、各種手当を個々に検討したなかで、定年後の”精勤手当”の不支給に

ついては、「職務内容が同じにもかかわらず定年後という理由で支給しないのは

違反」と認定しました。

その一方、定年前に支給していた”住宅手当”や”家族手当”など生活給と考えられる

手当を定年後に不支給としたことについては一定の理由を認めたほか、年間支給総額が

定年前の約8割を確保されている点を評価し、労働者の訴えをほぼ否定しました。

 

それでは、定年後働き続ける従業員の賃金はどのように考え、何割程度まで減額が

認められるのでしょうか?

会社としては、人件費の増大による経営難は避けなければならず、従業員は65歳から

国民年金や厚生年金保険の支給が開始されることも考慮するなど様々な角度から

検討が必要と考えます。

 

 

 

 

 

こんなときどう対応する?社員の言動(その2)

みなさん、こんにちは。

以前掲載しました ”こんなときどう対応する?社員の言動” の2回目です。

今回は、ある社員を転勤させようとしたら、「両親の介護があるので応じられません。」と言われた時の対応についてです。

一般論としては、① 就業規則に異動・転勤の規定がある ② 個別の同意がある ③ これまで慣行として実施している など会社に転勤命令権があるとしても、1)業務上の必要性が存在しない場合 2)他の不当な動機・目的をもってする場合 3)労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合 等の事情がある場合には、転勤命令は権利の濫用として無効になる可能性が高くなります。

今回の ”両親の介護” というケースは、会社にとって転勤が業務上必要であったとしても、または不当な動機や目的ではないとしても、この従業員が両親の介護をする必要があり、他にまわりでしてくれる適当な人がいない(代替不可能)という事情が認められ、通常甘受すべき事情を著しく超える不利益が存在すると判断されました。(NTT東日本事件)

では会社が従業員に出した転勤命令は有効なのに、従業員にその命令を拒否された場合です。

この場合は『業務命令違反』となる可能性が高くなります。

例えば、単身赴任となるため転勤命令を拒否した事例では、”通常甘受すべき程度” として転勤命令有効の判決が出ています。(ソフィアシステムズ事件)

転勤命令を拒否された時の会社の対応としては、従業員に対して十分に説得して(最低でも1か月以上)理解を求めて、それでも拒否するのであれば、 ”合意退職”、”普通解雇”、最終的には ”懲戒解雇” も検討せざるを得ないと考えます。

今回はあくまで事例です。実際にはいくつもの要素が絡み合いトラブルに発展しているはずです。

最終的には裁判所が有効・無効の判断をすることになりますが多少とも参考になれば幸いです。

 

 

経営労務診断を受けませんか?

みなさん、こんにちは。

今回は、経営労務診断についてお話したいと思います。

経営労務診断とは、自社の経営労務に関してきちんと管理できているか第三者である社会保険労務士のチェックを受け、改善点があれば見直しを行い、最終的に適切な経営労務管理を実施している企業であることを証明するシール『経営労務診断適合企業』を貼ってホームページに掲載しWebサイトに公開します。

この診断を受けることによって、会社は雇用管理の意識向上と同時に適切な経営労務管理に取り組んでいる会社であることを社内外にアピールでき、そこで働く従業員の動機づけにもつながります。

例えば、ビジネス取引相手を探している会社がひとつのホームページを見つけ、しっかり法令順守している企業であることが分かれば安心して取引条件のお話ができるはずです。

また従業員を募集する際、募集していることを知った応募者がホームページを見たときに他に判断基準がなければ「安心して働ける会社」として最優先に検討してもらえるはずです。

主な診断項目(必須)は、

1.法定帳簿

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳

2.人事労務関連規程

  • 就業規則
  • 労働条件関連規程
  • 賃金関連規程
  • 育児・介護休業関連規程

3.人事労務管理データ

  • 労働時間管理
  • 健康診断管理
  • ハラスメント相談・対応記録

4.社会保険・労働保険

  • 社会保険の加入
  • 労働保険の加入

5.従業員情報

  • 全従業員数
  • 正規雇用者数
  • 全従業員に対する正規雇用者数の割合

その他任意項目として

  • 正規従業員の平均年齢
  • 正規従業員の平均年収
  • 正規従業員の年間平均労働時間数
  • 正規従業員の平均勤続年数

等々があります。

具体的に私が昨年から診断を実施し、今春掲載しました『富士ライフサポート株式会社』様のホームページをご紹介します。http://fuji-dg.jp/

このホームページ自体大変工夫されていますが、なかでも求人情報のページは、まさに同業他社と差別化されたページになっていると思います。

募集を知りホームページを確認した応募者は、このホームページから職場の雰囲気を感じ取ることが出来ると思います。

この経営労務診断は、JIPDEC(一般社団法人日本情報経済社会推進協会)が運営するROBINS(サイバー法人台帳)が情報管理を行っています。

JIPDEC http://www.jipdec.or.jp/

ROBINS https://robins.jipdec.or.jp/robins/index.jsp

働きやすい職場環境づくりを構築し、業務拡大に繋げていこうとお考えの事業者様は、是非 ”経営労務診断” をご検討してはいかがでしょうか。

 

 

労働基準監督署の是正勧告

先日、ある事業所が労働基準監督署から2点是正勧告を受けました。

ひとつは労働契約書に書かなければならない項目が書いていないという不備があったことです。

労働基準法15条で『労働契約を締結する際は労働条件を明示する』ことが、さらに労働基準法施行規則5条で、労働契約書に記載しなければならない項目(絶対的記載事項)が定められています。

    1. 労働契約の期間
    2. 就業の場所及び従事すべき業務
    3. 始業及び終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇等
    4. 賃金、計算及び支払方法、締切及び支払時期、昇給
    5. 退職(解雇事由を含む)
    6. その他会社で定めが有る事項

 

二つ目は労働者名簿を作成していませんでした。

労働者名簿の作成は、労働基準法107条に定められており、施行規則53条には

    1. 性別
    2. 住所
    3. 従事する業務の種類
    4. 雇入れの年月日
    5. 退職の年月日及びその事由(解雇の場合はその理由)
    6. 死亡の年月日及びその原因

を記入しなさいとあります。(30人未満の会社は、”3.従事する業務の種類” は省略できます。)

ひとつの会社に、2以上の事業所がある場合は、それぞれ個別に労働者名簿を作成する必要があります。

 

この会社は、パートタイマーの契約に関する事項が曖昧な契約書でした。

例えば、『1年ずつ契約更新する』と書かれていましたが、実際は面接や更新内容の確認など更新の際の手続を行わず、慣習的に自動更新を行なってきました。

それでも事業を始めて30年超。いままで大きなトラブルもなく『自分の会社は大丈夫だろう。』とこれまでやってきました。

しかし今年はじめ、長年勤めた従業員に対して「70歳」という年齢を理由に契約更新をせず雇止めとしました。

それに不満を持った従業員が、労働基準監督署に相談に行ったため、調査する中で退職の手続に大きな問題はなかったものの今回の上記違反が発覚しました。

今回の事例は、”労働契約書” という書面は整っていましたがその中身が不備であったり、知識不足で法律で定められた書類を整えていなかったりというものです。

これらは他人事ではありません。皆さんの会社は、大丈夫でしょうか?

改正パートタイム労働法が施行しました!

平成27年4月1日 パートタイム労働法が改正施行されました。

この記事は以前にも記載しましたが、ちょうど施行時期なので再度確認します。

今回の改正ポイントは、

    1. パートタイマーの公正な待遇の確保
    2. パートタイマーに対する納得性を高める措置を拡充
    3. パートタイム労働法違反事業者に対する厚生労働大臣の勧告・公表

今回、『パートタイマーの公正な待遇の確保』を目的に、第8条(短時間労働者の待遇の原則)が新設されました。

 

『公正な待遇の確保』とは具体的には、パートタイマーの処遇が正社員と相違する場合は、

    • 職務の内容(業務内容や責任の程度)
    • 配置の変更等人材活用の仕組み
    • その他の事情等

を考慮して不合理なものであってはならない、ということです。

「その他の事業」とは、 ”従来からの労使慣行” などが考えられます。

 

また、改正前の第8条で規定された正社員との差別的取扱いの禁止では

    1. 職務の内容が正社員と同じ
    2. 人材活用の仕組みが正社員と同じ
    3. 無期労働契約を締結している

という三つの要件をすべて満たしたパートタイマーが差別的取扱い禁止の対象でしたが、今回の改正により第9条(上記8条が移行)で、「3」が削除となり、「1」と「2」の要件だけで差別的取扱いが禁止されるパートタイマーに該当する可能性が高くなります。

 

二つ目の改正ポイントは、パートタイマーを雇用したときには、

    1. 賃金制度はどのようになっているのか(賃金の決定方法)
    2. どのような教育訓練があるのか
    3. どの福利厚生施設が利用できるのか
    4. 正社員転換制度はあるのか

などを個別にあるいはまとめて説明会などで説明する必要があります。(第14条1項)

また雇入れ後、パートタイマーから

  • 賃金はどの要素をどう勘案して決定しているのか
  • どの教育訓練・福利厚生施設が使え、使えないものは何故使えないのか

などの説明を求められた場合は説明しなければなりません。(第14条2項)

合わせてこれらの説明を求められたことを理由に不利益な取扱いをすることも禁止です。

さらに、雇入れ時の書面(労働条件通知書等)には、『相談窓口』(相談担当部署・相談担当役職・相談者氏名)を記載することが義務づけられました。

 

三つ目の改正ポイントは、これらの法律に違反した事業者に対して、厚生労働大臣は勧告し、さらに従わなかった事業主に対しては公表することができます。

また、パートタイム労働法に基づく報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処せられます。

 

パートタイマーの無期契約転換への注意点!

昨年の労働契約法改正で、パートタイマーが平成25年度以降契約更新を繰り返し、5年を経過した後、無期契約へ転換を希望した場合の対策について、先日改めてご相談を受けました。

この場合、まず必要なことは、就業規則の見直しをすることです。

 

1.会社が無期転換を考えていない場合

重要なのは、最初(平成25年度以降)の労働契約時に、「契約更新は4回を限度とすること」を明確に書いておくことです。

さらに、毎年契約更新するごとに、「残り〇年です。」ということを確認し、無期契約の可能性がないことをその都度伝え、余計な期待を持たれないようにすることです。

 

2.会社が無期転換を考えている場合

会社は、有期パートタイマーと無期パートタイマーの定義を明確にします。

パートタイマーが5年経過後、希望する場合は無期転換の申込みができることを書きます。

また、無期転換後の労働条件(転換前の労働条件と同一でも構いません)や転換に関する手続等も書いておきます。

さらに、無期パートタイマーの定年を決めておいた方がいいと思います。

 

3.不合理な労働条件の禁止

有期契約社員と無期契約社員とで、労働条件に差があることを禁止しているわけではなく、合理的な理由がなく差を設けることを禁止しているということです。

不合理かどうかは、以下の事情等を考慮して判断します。

  • 職務の内容(業務内容、それに伴う責任の程度)=(例)クレーム処理
  • 人材活用方法(人事異動の有無やその範囲)=(例)転勤の有無
  • その他「期間の定めがあること」により異なる労働条件とすることが、社会通念上認められる事情があるか

この労働条件とは、賃金、労働時間だけでなく、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、福利厚生等を含む一切の待遇が含まれます。

厚生労働省の通達では、次の内容が「不合理な労働条件」に該当する可能性があるとしています。

  • 正社員に通勤手当を支給するが、有期契約社員には支給しない。
  • 正社員は社員食堂を利用できるが、有期契約社員は社員食堂を利用できない。
  • 正社員には安全管理上の備品を無償で支給するが、有期契約社員からは、実費を徴収する。

これらを踏まえて、平成30年度までの早い時期に対応策を検討してください。

改正高年齢者雇用安定法

改正高年齢者雇用安定法が今年8月29日に成立し、来年4月1日から施行されます。

大きな改正点は、「継続雇用制度の対象者を限定できる」から、原則として「希望者全員を継続雇用制度の対象者にしなければならない。」義務になりました。

ただし、「例外」も検討されており

  • 「心身の故障のため業務に耐えられないと認められること」、「勤務態度が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと」等、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合
  • 就業規則に定める解雇事由または退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として別に規程を作成する
  • 継続雇用しないことについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる

上記内容は、11月以降具体的に厚生労働省から発表になる予定です。

いずれにしても、会社として来年4月以降に定年を迎える個々の従業員について、継続雇用(再雇用)の対象とするのか、しないのか、継続雇用(再雇用)する場合の処遇(賃金等)をどのようにするか等あらかじめ検討しておく必要があります。

労働条件は下げられる?!

リーマンショック後、少し持ち直したかに思われた景気は、ギリシャに端を発したユーロ圏の財政危機やそれに伴う円高、さらに東日本大震災の発生で一向に上向く様子はありません。

皆さんの会社はいかがでしょうか。業績が伸びない中で例えば賃金の見直しを考えざるを得ないとお悩みの社長様もいらっしゃるのではないでしょうか。

当然ですが、会社も従業員も労働条件(約束=就業規則)は守らなければなりません。しかし今ある約束(就業規則)は、どのような時期にあるいはどのようにして作られたものかを振り返り、見直す時期かもしれません。

例えば、売上好調で人員増加のときに作成し、見直しをしないまま年月が経過したが、今は経営環境が厳しく守られていないということはありませんか。あるいは、誰かにもらった就業規則をそのまま代用しているので、自社に当てはまらない部分があるがそのままにしているということはありませんか。

守られない約束(就業規則)をそのまま先送りするより、現時点で会社としてできる約束(就業規則)を従業員の方々と確認しあいながら見直しを進めるほうが結果的にリスクやコストは低く抑えられると考えます。

ご相談をいくつか頂きますが、多くはギリギリになってからのため選択の幅が限られています。できるだけ早い段階のほうが対策の余地はあります。

当然引き下げは労働基準法に定められた範囲になりますし、労働契約法に基づいたものになります。経過措置等対策も考えなくてはなりません。

いきなり来月から給料を1割カットしたり残業代を支払わないと言えば従業員の皆さんからは当然反発が起こります。日頃から従業員に誠意をもって接しているうえで、現在の厳しい経営状況や今後の見通し、経過措置等を十分説明し、理解を得て納得してもらい実施する必要があります。

以前に労働条件を下げて裁判になった例や下げるときの判断基準、必要な手続き等を書きました。今回改めて会社経営と労務問題の視点から労働条件の見直しを考えて見ました。

労働基準監督官の臨検!

労働基準監督署の調査を他人事として実感のない会社(社長)が多いように思います。しかし私の身近な情報でも今年に入って2社が調査を受けたようです。

臨検対象の基準は定かではありませんが、年度方針の中で一定の基準はあるようです。

当然のことながら事前通告なしの突然訪問です。そして必要な書類(主に以下)の提出を求められます。

  1. 就業規則
  2. 労働条件通知書
  3. タイムカード
  4. 労働者名簿
  5. 賃金台帳
  6. 36協定
  7. その他

そのうち一社は日頃から労務管理に注意を払っており、就業規則の見直しをした直後でしたが、労働時間の管理が不十分という指導を受け、現在見直しをしているそうです。もう一社は、

  1. 労働条件通知書がない(採用時、口頭で伝える)
  2. 就業規則はあるが、社長以外知らない(周知していない)
  3. 就業規則を届け出ていない
  4. 労働時間は1週間40時間を超えている
  5. 時間外労働の割増賃金は支払っていない
  6. 36協定はない

この会社は過去に何回か指導を受けたことがありましたが、そのままにしていたようです。

結局今回以下の点で是正勧告を受けました。

  1. 労働契約時に労働条件を書面で明示していない
  2. 36協定を締結して届け出ていない
  3. 時間外労働をさせている
  4. 割増賃金を支払っていない
  5. 就業規則を見直し、届け出ていない
  6. その他

特に割増賃金の支払いを過去2年間に遡って計算すると、数千万円になるということで、支払い能力を超えるため現在対策を検討しているそうです。

ご自分の会社は、いま調査されても大丈夫でしょうか。予防対策を改めてお考えください。

契約(変更)は必ず書面で!

先日、ある裁判を担当された原告側弁護士から判決内容を聞く機会がありました。

訴訟の主な内容は、退職した従業員(原告)が会社(被告)に「賃金の減額による未払い分の賃金を支払え。」というものです。

会社側(被告)は、「賃金を減額することは従業員に説明し、同意を得ている。」と主張しました。

この会社(被告)と従業員との賃金決定は、以前の職場の賃金をもとに個々に決定しており、この従業員(原告)とも年額基本賃金を決定し、手当も賞与もなしという契約をしました。

被告の会社は中途採用が多く、従業員の賃金にバラツキがあり、不公平な格差が生じたため全体の賃金体系の見直しを必要と考えました。

被告は、原告の1か月当たりの基本賃金を減額しました。そのかわり従来はなかった「職務手当」(定額制時間外賃金として)と、年2回の賞与2カ月分を支給することとしましたが、年間総額では、約2割の減額としました。

被告はこれを原告に入社2カ月後に説明し同意を得て、その2カ月後の賃金支払日から実施しましたが、労働条件承諾書に署名させたのは、初めて説明してから1年後でした。

原告は、賃金減額の同意を否認しています。原告は、賃金減額を提示されたとき、「ああわかりました。」と返事をしたことは認めています。

その点を裁判官は、「そのこと(『ああわかりました』)が賃金減額に同意したとの認定は困難である。その理由は、労働者が経営者側に不評を買わないようにしたり、その場では差し障りのない返事をすることはよくあることである。しかし、賃金減額は労働者の生活を直撃する重大事であるから簡単に承諾できることではない。合意を得たのであれば、通常その時点で書面を取り交わしておくものである。」としました。

「職務手当」(定額制時間外賃金)についても興味深い解釈がありましたが、こちらは別の機会にします。

この裁判の判決は、ほぼ原告の主張が認められたものになりました。この裁判は、控訴されています。

この会社(被告)は就業規則があり、賃金規定も諸手当も時間外労働に関する規定もありましたが、規則が会社にあっていなかったのか、うまく運用されていなかったのか、結局数百万円の大きな金額を支払うことを命じられました。