労働条件は下げられる?!

リーマンショック後、少し持ち直したかに思われた景気は、ギリシャに端を発したユーロ圏の財政危機やそれに伴う円高、さらに東日本大震災の発生で一向に上向く様子はありません。

皆さんの会社はいかがでしょうか。業績が伸びない中で例えば賃金の見直しを考えざるを得ないとお悩みの社長様もいらっしゃるのではないでしょうか。

当然ですが、会社も従業員も労働条件(約束=就業規則)は守らなければなりません。しかし今ある約束(就業規則)は、どのような時期にあるいはどのようにして作られたものかを振り返り、見直す時期かもしれません。

例えば、売上好調で人員増加のときに作成し、見直しをしないまま年月が経過したが、今は経営環境が厳しく守られていないということはありませんか。あるいは、誰かにもらった就業規則をそのまま代用しているので、自社に当てはまらない部分があるがそのままにしているということはありませんか。

守られない約束(就業規則)をそのまま先送りするより、現時点で会社としてできる約束(就業規則)を従業員の方々と確認しあいながら見直しを進めるほうが結果的にリスクやコストは低く抑えられると考えます。

ご相談をいくつか頂きますが、多くはギリギリになってからのため選択の幅が限られています。できるだけ早い段階のほうが対策の余地はあります。

当然引き下げは労働基準法に定められた範囲になりますし、労働契約法に基づいたものになります。経過措置等対策も考えなくてはなりません。

いきなり来月から給料を1割カットしたり残業代を支払わないと言えば従業員の皆さんからは当然反発が起こります。日頃から従業員に誠意をもって接しているうえで、現在の厳しい経営状況や今後の見通し、経過措置等を十分説明し、理解を得て納得してもらい実施する必要があります。

以前に労働条件を下げて裁判になった例や下げるときの判断基準、必要な手続き等を書きました。今回改めて会社経営と労務問題の視点から労働条件の見直しを考えて見ました。

労働基準監督官の臨検!

労働基準監督署の調査を他人事として実感のない会社(社長)が多いように思います。しかし私の身近な情報でも今年に入って2社が調査を受けたようです。

臨検対象の基準は定かではありませんが、年度方針の中で一定の基準はあるようです。

当然のことながら事前通告なしの突然訪問です。そして必要な書類(主に以下)の提出を求められます。

  1. 就業規則
  2. 労働条件通知書
  3. タイムカード
  4. 労働者名簿
  5. 賃金台帳
  6. 36協定
  7. その他

そのうち一社は日頃から労務管理に注意を払っており、就業規則の見直しをした直後でしたが、労働時間の管理が不十分という指導を受け、現在見直しをしているそうです。もう一社は、

  1. 労働条件通知書がない(採用時、口頭で伝える)
  2. 就業規則はあるが、社長以外知らない(周知していない)
  3. 就業規則を届け出ていない
  4. 労働時間は1週間40時間を超えている
  5. 時間外労働の割増賃金は支払っていない
  6. 36協定はない

この会社は過去に何回か指導を受けたことがありましたが、そのままにしていたようです。

結局今回以下の点で是正勧告を受けました。

  1. 労働契約時に労働条件を書面で明示していない
  2. 36協定を締結して届け出ていない
  3. 時間外労働をさせている
  4. 割増賃金を支払っていない
  5. 就業規則を見直し、届け出ていない
  6. その他

特に割増賃金の支払いを過去2年間に遡って計算すると、数千万円になるということで、支払い能力を超えるため現在対策を検討しているそうです。

ご自分の会社は、いま調査されても大丈夫でしょうか。予防対策を改めてお考えください。

時間単位年休 3つの疑問?

平成22年4月に労働基準法が改正され、時間単位年休が認められました。

皆さんの会社では、導入されたでしょうか。(就業規則の見直しが必要です。)

今回、実務的な問題を3つご照会したいと思います。

Q1. 時間単位年休は年次有給休暇のうち5日以内となっていますが、次年度に繰り越すことはできるでしょうか。

A1. 次年度の時間単位年休は、今年度から繰り越された日数と合わせて5日以内となります。つまり今年度の残日数2日分あっても次年度の5日分を合わせた7日とはならずあくまでも5日間です。

Q2. 30分遅刻してきた従業員が時間単位年休を請求してきた場合、与えなければならないのでしょうか。

A2. 時間単位年休の付与は1時間単位となっています。30分の遅刻に対して30分の時間単位年休は与える必要はありません。また年休の申し出は原則として前日の業務終了までに請求するように会社で決めておくと本来の主旨に沿ったものとなり、管理もしやすくなります。

Q3. 始業時刻9時~終業時刻18時、休憩時間1時間と決まっている会社で、始業時刻から1時間の時間単位年休を取得し、10時に出勤して1時間の休憩時間を挟みながら19時まで仕事をした従業員に1時間の時間外手当を支払う必要がありますか。

A3. 労働基準法32条では1日の労働時間は、休憩時間を除いて8時間までとなっています。今回は実労働時間をみると8時間であり時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。

時間単位年休を認めることによって会社内の秩序が乱れるという理由から時間単位年休を導入しない会社もあります。上手に管理ができれば、従業員にとって利用しやすい制度だと思います。

割増賃金計算と除外できる手当!

割増賃金の計算方法は、皆さんご存知のことと思います。

1時間単価=月給額(月給制の場合)÷月平均所定労働時間数

月給額のうち割増賃金の計算から除外できる手当があることを知っておられる方も多いと思います。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 子女教育手当
  4. 住宅手当
  5. 臨時に支払われた賃金
  6. 一か月を超えるごとに支払われた賃金

これらは法律で決められた除外できる手当ですが、会社で独自に決めた手当(例えば皆勤手当)は原則として計算の基礎から除くことはできません。しかしだからと言って基本給を抑えて、上記手当を多くしても実態が伴っていなければ賃金とみられます。例えば

家族手当として「妻帯者 2万円、独身者 1万円」等の一定額を支給する場合は、賃金とみられる可能性があります。

通勤手当として通勤距離に対して一定額を支給する場合は、一部賃金とみられる可能性があります。

住宅手当として「賃貸住宅 1万円、持家住宅 2万円」等の一定額、あるいは全員に一律に定額を支給する場合は、賃金とみられる可能性があります。

逆に、営業手当、役職手当等を「時間外手当、深夜労働、休日労働」の代替として当てる旨明確に就業規則等に記載があれば除外できることもあります。

皆さんの会社では、余分な手当を含めて割増賃金の計算をしていませんか。あるいは、計算に必要な手当てを除いて計算していませんか。あわせて就業規則(賃金規程)の手当をもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

精神障害の労災認定増加!

厚生労働省によると平成22年度の精神障害による労災補償の請求件数、支払い決定件数が過去最高になりました。

請求件数は1,181件(前年比45件増)、支給決定件数は308件(前年比74件増)

労災認定された支給決定件数308件のうち、具体的な発症原因上位10項目を以下に列挙しました。発症の主な原因は、長時間労働よりも職場内の人間関係による心理的負荷が大きいことが分かりました。

1. 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった    41件

2. ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた          39件

3. 悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした             32件

4. 勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた          25件

5. 上司とのトラブルがあった                   17件

6. 重度の病気やけがをした                    16件

7. 顧客や取引先からクレームを受けた               10件

8. 退職を強要された                       10件

9. 複数名で担当していた業務を一人で担当するようになった       9件

10. セクシュアルハラスメントを受けた               8件

今回特に重要視されたのが、セクシュアルハラスメントの問題です。

今年になって、セクハラ行政訴訟の和解がありました。これは厚生労働省がセクハラによる精神障害を労災と認め和解提案をして、原告が受け入れたものです。厚生労働省では、あわせてセクハラに対する労災認定の判断基準の見直しを進めており、年内にも新指針が発表される予定です。

皆さんの会社では、セクシュアルハラスメントの対策はお済みでしょうか。

コミュニケーションは難しい!

8月に入って携帯電話(スマートホーン)を購入しようと思い、ショップに行きました。

店頭でサンプルを見ていると、新機種が並ぶ中で旧モデルが格安で表示されていました。使い慣れるまで古い機種で契約をしようと席につきました。

ところが格安の表示価格は、自分に不要なオプションを付ける必要があったり、購入後の毎月値引きであったり、いろいろ説明されましたがその場では理解できませんでした。なぜこのような価格表示になっているか等疑問点を質問していると店員のかたもだんだん表情が硬くなり、20~30分後結局買わずに帰ってきました。

数日後同じブランドの別の店に行ってみました。価格体系はほぼ同じ内容です。サンプルを見ながら前回と同じような質問をしてみました。そうすると今回はある程度理解でき納得しました。店が混んでいたためその日は買わずに帰りました。

私は最初の店より2番目の店の説明がなぜ理解できたのかを検証してみたくなりました。意地の悪い私は、さらに別の店に行ってみました。また同じような質問をしてみると、今度は私が何を質問したかわからなくなるほどチンプンカンプンな説明を受け、早々に帰ってきました。

私は、3店舗で同じ疑問点を質問しました。しかし、説明のポイントがそれぞれ違うのです。質問者が同じで質問内容を同じにしていますから、これは、質問を受ける側(今回は店員)の解釈に原因があると思いました。

受け手(店員)は質問者が何を聞きたいかを理解すること。次に質問に対する説明をきちんと相手に伝える能力が必要です。そうでなければ本人にいくら知識があっても相手に伝わりません。

今回、私自身の仕事に置き換えても、十分あり得ることだと思いました。せっかく相談を受けても相談者の本音を理解せず、当たり障りのない表面的なアドバイスをして終わっている可能性があります。相談者もモヤモヤ感が残り、結局何も解決していなかったことになります。

最終的に私は、2番目に行ったお店で購入しました。ちなみに購入したスマートホーンはまだほとんど活用できていません。私にとって操作は思った以上に難しいものです。

厚生年金保険料9月から値上げ!

平成16年の法改正により、厚生年金保険料率が平成29年まで毎年9月に0.354%ずつ引き上げられることになっています。

そのため今年も9月から16.412%となり、これを労使折半で8.206%ずつの負担になります。

従業員の方にも給与から社会保険料として控除される額が変わることを説明しておいた方がいいと思います。

1か月単位変形の時間外労働の計算は?

1か月単位の変形労働時間制を導入している会社では、時間外労働をどのように管理されているでしょうか。

たとえば、シフトした1か月の労働時間(所定労働時間)を超えた時間を時間外労働として計算されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

まず、1か月の法定労働時間の総枠

40時間×変形期間の暦日数(1カ月)÷7 で計算し、1か月が31日の場合は 177.1時間となります。

しかし、労働基準法第32条には、労働時間は休憩時間を除き、週40時間 1日8時間 しか規定がありません。つまり1カ月177.1時間は法定労働時間の総枠に収まっているかの目安であり、法律に決められた法定労働時間ではありません。

この場合の時間外労働の管理は、シフトした1日の所定労働時間が8時間ならそれを超えた時間、9時間ならそれを超えた時間が時間外労働となり割増賃金となります。

ちなみにシフトした時間が7時間で1時間の残業をした場合は、1時間分の通常賃金を支払えばよく割増にはなりません。

次に、シフトした週の所定労働時間が40時間ならそれを超えた時間、45時間ならそれを超えた時間が時間外労働になります。

最後に、1か月の総枠を超えた時間があればその時間を時間外労働として計算します。

大まかな内容となりましたが、多少ともご理解いただけたでしょうか。

最低賃金を800円に!

厚生労働省では、2020年までに最低賃金を800円まで引き上げることを目指し、その支援対策を設けました。

地域別最低賃金額が700円以下(北海道も入ります。)の地域の中小企業が対象です。

① 4年以内に最低賃金を800円以上にすること

② 業務改善計画(賃金制度、就業規則の作成、研修他)を作成し、実施すること

この支給要件を満たした事業主(支給対象事業主の条件は別にあります。)に、業務改善経費の2分の1(下限額5万円、上限額100万円)を「業務改善助成金」として支給します。

今回の助成金は、賃金引き上げの対策に要した費用に対するものです。(引き上げた最低賃金分を助成するものではありません。)

概略は、こちらをご確認ください。

契約(変更)は必ず書面で!

先日、ある裁判を担当された原告側弁護士から判決内容を聞く機会がありました。

訴訟の主な内容は、退職した従業員(原告)が会社(被告)に「賃金の減額による未払い分の賃金を支払え。」というものです。

会社側(被告)は、「賃金を減額することは従業員に説明し、同意を得ている。」と主張しました。

この会社(被告)と従業員との賃金決定は、以前の職場の賃金をもとに個々に決定しており、この従業員(原告)とも年額基本賃金を決定し、手当も賞与もなしという契約をしました。

被告の会社は中途採用が多く、従業員の賃金にバラツキがあり、不公平な格差が生じたため全体の賃金体系の見直しを必要と考えました。

被告は、原告の1か月当たりの基本賃金を減額しました。そのかわり従来はなかった「職務手当」(定額制時間外賃金として)と、年2回の賞与2カ月分を支給することとしましたが、年間総額では、約2割の減額としました。

被告はこれを原告に入社2カ月後に説明し同意を得て、その2カ月後の賃金支払日から実施しましたが、労働条件承諾書に署名させたのは、初めて説明してから1年後でした。

原告は、賃金減額の同意を否認しています。原告は、賃金減額を提示されたとき、「ああわかりました。」と返事をしたことは認めています。

その点を裁判官は、「そのこと(『ああわかりました』)が賃金減額に同意したとの認定は困難である。その理由は、労働者が経営者側に不評を買わないようにしたり、その場では差し障りのない返事をすることはよくあることである。しかし、賃金減額は労働者の生活を直撃する重大事であるから簡単に承諾できることではない。合意を得たのであれば、通常その時点で書面を取り交わしておくものである。」としました。

「職務手当」(定額制時間外賃金)についても興味深い解釈がありましたが、こちらは別の機会にします。

この裁判の判決は、ほぼ原告の主張が認められたものになりました。この裁判は、控訴されています。

この会社(被告)は就業規則があり、賃金規定も諸手当も時間外労働に関する規定もありましたが、規則が会社にあっていなかったのか、うまく運用されていなかったのか、結局数百万円の大きな金額を支払うことを命じられました。