なぜ就業規則の見直しが必要か?

就業規則は、10年くらい前までは「社員が10人になったので作成して労働基準監督署に届け出ておこう。」というのが多くの方の認識でした。

最近は、就業規則の作成、見直し等の必要性が強調されますが、それは労使間のトラブルが増加しているためです。

トラブル増加の原因は、今までの労使慣行(終身雇用、年功賃金等)が崩れたことが大きな要因と考えます。

急速に変化する雇用労働環境に対応するために労働基準法、雇用保険法、育児介護休業法等の法改正が頻繁に行われました。

就業規則見直しを考えるポイントをいくつか挙げてみました。

【社  員】 今までは正社員がほとんどでその補助としてパート社員がいました。しかし、今では、パート社員も正社員と同じ仕事をしています。その他に契約社員、嘱託社員等雇用形態は多様化しており、それぞれに対応した規定が必要です。

【労働時間】 今までは多くの会社が労働基準法に定める1日8時間、1週40時間という労働時間の範囲で規定して、多少のサービス残業はみて見ぬ振りをしていたのが実情です。ここ数年、残業に対する賃金の未払いが問題となっており、1年単位あるいは1カ月単位の変形労働時間制を導入して時間外労働を管理する等の対応をしている会社が増加しています。

【休  職】 昔は結核は不治の病と言われ、栄養を取って静かに寝ているしかありませんでしたが、今では薬で治るため長期療養は必要ありません。今は、現代病の代表であるうつ病等メンタルヘルスの規定や対策(休職、復職、退職)が必要です。

【服務規律】 昔は紙によって持ち出された社内情報、個人情報が、今ではパソコン操作一つで簡単に流出します。これからは情報の管理体制を明確にし、流出させた場合の対応および処分もきちんと規定しておかなければなりません。また、セクハラ、パワハラの対策も必要です。

その他に、会社の経営が厳しいと言って一方的に残業代をカットしたり、給料を減額したりという話を聞きます。しかし必要な場合は法律に基づき「不利益変更」の手続きをすることによってトラブルは回避できます。

代表的なものを一部列記しましたが、参考になることはあったでしょうか。

社員3人の会社の事件!

これは社員3名を雇用しているソウト開発会社の代表(X氏)から伺った話です。

事業を始めて5~6年の会社ですが、家族的な職場の雰囲気を大事にしていました。

業績が伸びて業務も忙しくなったため、一人の正社員(Aさん)を中途採用しました。数か月経過したころからAさんは、業務中仕事に集中せず、ボーッとしているようになりました。注意しても直らないので、病院に行くよう勧めました。

病院の診断書は、うつ病でした。X氏は、Aさんと今後のことをいろいろ話し合い「仕事を辞めてきちんと病気を治したほうがいい。」という話をしました。Aさんも「じゃ、辞めます。」と返事をしました。X氏は退職の手続きをすませ、すべて終わったと思っていました。

この件についてほとんど忘れて忙しく業務をこなしていたX氏に、半年ほどたったある日、弁護士から一通の書類が送られてきました。

内容は、Aさんの代理人として「不当解雇に対する精神的損害賠償として、600万円を請求する。」ものでした。

家族的な職場の雰囲気を大事にしていたX氏は、Aさんを無理に辞めさせたつもりはなく、話し合いの上で、Aさんの体を気遣い、退職を勧めたつもりでいました。(当然労働基準法の知識はありません。)

この事件は、労働審判に持ち込まれ最終的に金銭的和解で合意しました。

X氏は、なぜこのようなことになったのかを考えていました。そんな矢先、次の事件が起きました。

別の社員(Bさん)がある日、出社せず連絡も取れなくなりました。無断欠勤です。3日目にようやく連絡が取れたBさんは、「体が重くてずっと寝ていた。」とのことでした。

家族的雰囲気の職場を重視するX氏は、翌日出社したBさんに無断欠勤を注意し、この間の仕事を取り戻すよう促しました。

問題発生はこの後です。

この様子を見ていた他の社員(Cさん)が、「無断欠勤をしたのに、なぜ処分をしないのか。」と不満を口にしました。「休んだ分の仕事をすぐ取り戻せばいいという問題ではない。そういうことであればみんな勝手に休むようになる。」という主張です。

X氏はCさんの意見に反論できませんでした。しかし、Bさんを処分もできませんでした。なぜなら社内に処分するルールを作っていなかったからです。

ルールがないまま処分すれば、その時の気分や相手によって処分内容が変わり、それも問題発生の一因になります。

X氏は多くの人に悩みを打ち明け、相談し、最終的にAさんの件から休職・復職・退職、Bさんの件から服務規律を念頭に社内ルール【就業規則】を作成しました。家庭的な職場の雰囲気は壊さないように心掛けたうえで指導を受けながら運用を考えています。

皆さんは、この会社は社員に恵まれない運の悪い会社だと思いますか。

それとも、十分あり得る問題だと考えますか。

労働条件は下げられる?!

リーマンショック後、少し持ち直したかに思われた景気は、ギリシャに端を発したユーロ圏の財政危機やそれに伴う円高、さらに東日本大震災の発生で一向に上向く様子はありません。

皆さんの会社はいかがでしょうか。業績が伸びない中で例えば賃金の見直しを考えざるを得ないとお悩みの社長様もいらっしゃるのではないでしょうか。

当然ですが、会社も従業員も労働条件(約束=就業規則)は守らなければなりません。しかし今ある約束(就業規則)は、どのような時期にあるいはどのようにして作られたものかを振り返り、見直す時期かもしれません。

例えば、売上好調で人員増加のときに作成し、見直しをしないまま年月が経過したが、今は経営環境が厳しく守られていないということはありませんか。あるいは、誰かにもらった就業規則をそのまま代用しているので、自社に当てはまらない部分があるがそのままにしているということはありませんか。

守られない約束(就業規則)をそのまま先送りするより、現時点で会社としてできる約束(就業規則)を従業員の方々と確認しあいながら見直しを進めるほうが結果的にリスクやコストは低く抑えられると考えます。

ご相談をいくつか頂きますが、多くはギリギリになってからのため選択の幅が限られています。できるだけ早い段階のほうが対策の余地はあります。

当然引き下げは労働基準法に定められた範囲になりますし、労働契約法に基づいたものになります。経過措置等対策も考えなくてはなりません。

いきなり来月から給料を1割カットしたり残業代を支払わないと言えば従業員の皆さんからは当然反発が起こります。日頃から従業員に誠意をもって接しているうえで、現在の厳しい経営状況や今後の見通し、経過措置等を十分説明し、理解を得て納得してもらい実施する必要があります。

以前に労働条件を下げて裁判になった例や下げるときの判断基準、必要な手続き等を書きました。今回改めて会社経営と労務問題の視点から労働条件の見直しを考えて見ました。

労働基準監督官の臨検!

労働基準監督署の調査を他人事として実感のない会社(社長)が多いように思います。しかし私の身近な情報でも今年に入って2社が調査を受けたようです。

臨検対象の基準は定かではありませんが、年度方針の中で一定の基準はあるようです。

当然のことながら事前通告なしの突然訪問です。そして必要な書類(主に以下)の提出を求められます。

  1. 就業規則
  2. 労働条件通知書
  3. タイムカード
  4. 労働者名簿
  5. 賃金台帳
  6. 36協定
  7. その他

そのうち一社は日頃から労務管理に注意を払っており、就業規則の見直しをした直後でしたが、労働時間の管理が不十分という指導を受け、現在見直しをしているそうです。もう一社は、

  1. 労働条件通知書がない(採用時、口頭で伝える)
  2. 就業規則はあるが、社長以外知らない(周知していない)
  3. 就業規則を届け出ていない
  4. 労働時間は1週間40時間を超えている
  5. 時間外労働の割増賃金は支払っていない
  6. 36協定はない

この会社は過去に何回か指導を受けたことがありましたが、そのままにしていたようです。

結局今回以下の点で是正勧告を受けました。

  1. 労働契約時に労働条件を書面で明示していない
  2. 36協定を締結して届け出ていない
  3. 時間外労働をさせている
  4. 割増賃金を支払っていない
  5. 就業規則を見直し、届け出ていない
  6. その他

特に割増賃金の支払いを過去2年間に遡って計算すると、数千万円になるということで、支払い能力を超えるため現在対策を検討しているそうです。

ご自分の会社は、いま調査されても大丈夫でしょうか。予防対策を改めてお考えください。

契約(変更)は必ず書面で!

先日、ある裁判を担当された原告側弁護士から判決内容を聞く機会がありました。

訴訟の主な内容は、退職した従業員(原告)が会社(被告)に「賃金の減額による未払い分の賃金を支払え。」というものです。

会社側(被告)は、「賃金を減額することは従業員に説明し、同意を得ている。」と主張しました。

この会社(被告)と従業員との賃金決定は、以前の職場の賃金をもとに個々に決定しており、この従業員(原告)とも年額基本賃金を決定し、手当も賞与もなしという契約をしました。

被告の会社は中途採用が多く、従業員の賃金にバラツキがあり、不公平な格差が生じたため全体の賃金体系の見直しを必要と考えました。

被告は、原告の1か月当たりの基本賃金を減額しました。そのかわり従来はなかった「職務手当」(定額制時間外賃金として)と、年2回の賞与2カ月分を支給することとしましたが、年間総額では、約2割の減額としました。

被告はこれを原告に入社2カ月後に説明し同意を得て、その2カ月後の賃金支払日から実施しましたが、労働条件承諾書に署名させたのは、初めて説明してから1年後でした。

原告は、賃金減額の同意を否認しています。原告は、賃金減額を提示されたとき、「ああわかりました。」と返事をしたことは認めています。

その点を裁判官は、「そのこと(『ああわかりました』)が賃金減額に同意したとの認定は困難である。その理由は、労働者が経営者側に不評を買わないようにしたり、その場では差し障りのない返事をすることはよくあることである。しかし、賃金減額は労働者の生活を直撃する重大事であるから簡単に承諾できることではない。合意を得たのであれば、通常その時点で書面を取り交わしておくものである。」としました。

「職務手当」(定額制時間外賃金)についても興味深い解釈がありましたが、こちらは別の機会にします。

この裁判の判決は、ほぼ原告の主張が認められたものになりました。この裁判は、控訴されています。

この会社(被告)は就業規則があり、賃金規定も諸手当も時間外労働に関する規定もありましたが、規則が会社にあっていなかったのか、うまく運用されていなかったのか、結局数百万円の大きな金額を支払うことを命じられました。

メンタルヘルス対策

「メンタルヘルス」というキーワードはよく目にするようになりましたが、皆さんの職場で対策はお済みでしょうか。

メンタルヘルス疾患の原因は、過重労働やノルマ・締切のプレッシャー、あるいは人間関係の軋轢等職場環境によるものと、本人の性格やストレス耐性等個人の問題と考えられるものがあります。

メンタルヘルス疾患は、本人が気づく場合と、周囲の人が「あの人の様子が最近おかしい。」と気づく場合があります。

具体的に診断されると、本人の性格によって「会社に迷惑をかけるので早く職場に復帰したい。」と考える人と、「自分がこうなったのは会社のせいだ。あるいは上司のせいだ。」と主張し、場合によってはわがままと思われるような要求をしてくる人もいます。

これらの問題を未然に防止する解決策はありませんが、問題が発生したときの対策を就業規則等で決めておく必要があります。

問題が発生したときは、会社は個別にその時点で最善と思われる方法を適切に対応していくしかありません。まず、主治医に受診させます。よく聞く話は、まじめな従業員ほど早い職場復帰を望み、主治医に「職場復帰可能」と診断書に書くよう依頼するそうです。

主治医は会社の状況・職場環境・業務内容等を把握しないまま、本人の主張に沿った内容の診断書を書いてしまうことも多いようです。逆に会社側が心配になり、本人了解のうえで主治医と面接したり、主治医と会社の担当医(産業医)と連携して対応していくこともあります。

また、復職と休職を繰り返すことも考えられます。主治医が復帰を認めた場合でも、会社は完全復帰とはせず、様子を見るためリハビリ期間を設けるのも一つの方法です。その期間中に再発した場合の対処も決めておく必要があります。

これらの内容を具体的にどこまで就業規則等に規定するかはそれぞれ会社の考え方によって当然違ってきますが、「会社として対応を考えている」という意思を表すことで、従業員から安心感や信頼感を得ることができるはずです。

最後に専門機関・対策機関を一部掲載します。

・北海道安全衛生サービスセンター

・メンタルヘルス対策支援センター

・北海道立精神保健福祉センター

・札幌地域産業保健センター

・日本産業カウンセラー協会

売上UPはこの方法!

先にお断りします。私は売り上げアップのノウハウを持っていません。これから私が最近受けたセミナーでほんの一部ですが、印象に残ったお話をしたいと思います。

まず、株式会社サポルテ 塚田 康祐 講師の「ビジネスコーチング」です。内容は、まず身近な人に関心を持つということでした。具体的には、たとえば隣の人の長所を3分以内に10個以上書き出してみてください。私には思ったより難しいことでした。これは普段、人の欠点に目が行くからだそうです。

また、質問には二種類あるということです。それは、自分が聞きたい質問と、相手が話したいと思う質問です。具体例として営業会議で売上未達成の部下に、はじめの質問は、「なぜ、売り上げが上がらないのか?」 あとの質問は、「どうしたら売り上げが上がると思うか?」 違いがお分かりでしょうか。

少なくとも私は初めの質問ではモチベーションは上がらず、逆に押し黙ってしまいそうです。なるほどと思い、いざ質問を試みましたがやはり考えを引き出す質問というのは難しいものです。今後意識してあとの質問のしかたを心がけようと思います。

次に、株式会社ピーオーピーオリジン 沼澤 拓也(通称POPスター 沼澤 拓也)講師です。この方のお話は自分を見つめ直す意味で大変勉強になりました。自分をアピールするには、まず自分がどういう人間か、何を考えているかを再認識しなければなりません。次にそれを表現する仕方です。私は、日常に流されてあまり深く考えたことはありませんでした。

この機会に自分を振り返り、自分の目指す方向をキャッチコピーにしました。

「3つの安心をガッチリ!サポート」

この意図は、労使トラブルを最小限におさえるには労務管理上の予防と対策=就業規則の作成・見直しであり、、事業経営に安心して取り組んで頂けるようサポートさせて頂きたいという思いです。

すいません。やはりタイトルとは別の結論になってしまいました。

労働条件を変更したい!

法改正あるいは経営環境の変化によって、労働条件を変更しなければならない状況が考えられます。労働条件を変更するときは、原則として個別に労働者との合意が必要です。この合意は労働者の自由な意思に基づいたものであることが前提です。会社の決定に従業員が異議を述べなかったことを理由にしても合意とは認められない可能性があります。会社の説明に錯誤、あるいは脅迫があったと判断されたときも合意とは認められません。

就業規則の労働条件を変更するときは、その就業規則に変更する場合があることを規定し周知しておかなければなりません。それを踏まえたうえで変更の有効・無効の判断は、以下の通りです。

1. 会社側に変更の必要性がある

2. 就業規則の変更により労働者が被る不利益の程度

3. 変更後の就業規則の内容の相当性

4. 代償措置その他労働条件の改善状況

5. 労働組合等との交渉の経緯

6. 同種事項に関する社会の一般状況(同業種あるいは同規模)

 

上記項目は、過去の判例を判断基準として列挙していますが、争いになった時最終的には担当した裁判官の判断になります。

特に、「賃金」の見直しは、労働者の生活に直結するため、慎重な対応が必要です。そのため実施する場合でも3~5年くらいの経過措置を設けたほうがいいと思います。

 

労働時間の管理!

最近、退職した従業員から未払い残業代を請求されるトラブルが増えています。残業があったことを証明するのは労働者側の責任です。会社側は普段から従業員の労働時間を把握していれば、それに対してきちんと反証できますし、反証材料が不十分だと支払いが必要になる可能性があります。皆さんの会社では、労働時間はどのように管理されているでしょうか。

まず、就業規則等で始業・終業時刻がきちんと規定されていることが前提です。次に時間の管理方法は 1)社長自らチェックしている 2)タイムカードを活用している 3)自己申告をさせている 等あると思いますがいずれにしても厚生労働省ではこの管理を「使用者の責務」として指導しています。

タイムカードを活用している場合、労働基準監督署では一般的に打刻された始業時刻と終業時刻の間を、休憩時間を除き会社の指揮命令下にある労働時間とみています。

しかし、たとえば「交通の便の都合で始業開始の30分前に出社した」とか「業務終了後30分雑談をして退社した」等は日常あり得ることです。ではこのそれぞれ30分は労働時間となるでしょうか。普通に考えるならば労働時間ではありません。会社としてたとえば半年後、労働基準監督署から指摘されたときに「会社の指揮命令下にない」ことを証明しなければなりません。

そのためには、タイムカードとは別に始業・終業時刻を管理する会社独自の方法を決めて、それを従業員にもきちんと説明し、理解を得てから運用することです。それが後日発生するかもしれない労働時間のトラブルを最小限に抑える対策のひとつとなり、あわせて無駄なコストを抑えることにもなります。